助成者インタビュー

Interview
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パラ水泳

由井 真緒里(ゆい まおり)さん

2002年生まれ 群馬県出身

障がい者スポーツ支援

インタビュー:2022/09/07

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インタビュー企画第一弾として、パラ水泳 由井 真緒里さんにお話を伺いました。
生まれつき腰から下が動かず、リハビリとして水泳を始め、現在は運動機能障害10クラスのうち、5番目のクラスで活躍しています。「飛び込み台から水の中に入ると一気に緊張が溶けていくんです」と、あどけない笑顔で話してくれた由井さんは、上武大学でスポーツ健康マネジメントを専攻する大学生でもあります。
2021年と2022年に当財団の助成を受け、2021年には東京パラリンピック出場を経験し、2022年6月にマデイラで開催された世界選手権では200m自由形と個人メドレーで銅メダルを獲得しました。
今回、水泳を始めたきっかけから、スランプへの向き合い方、今後の展望についてお話いただきました。
インタビュー:2022年9月7日

水の中で自由に動けることが楽しかった

保育園の体育の時間に、足がつかないプールでも浮き輪をつけて、とても楽しそうにお友だちと遊んでいる姿を見ていた先生が、お母さんに水泳を勧めてくれました。リハビリの一環としても勧められていたのですが、スイミングスクールに通おうとしても、車椅子ということで全て断られてしまいました。
そんな話を園長先生にしたところ、水泳の先生を紹介してくださり、小学校5年生くらいまで週1回マンツーマンで水泳の基礎を教えていただきました。ずっと車椅子で、体を動かせる環境が少なかったので、水の中で自由に動けることが私にとってとにかく大きく、水中だったら歩ける楽しみもありました。もともと歩くことはできないと言われていましたが、陸上でもリハビリを頑張ったこともあって、杖を突けば歩けるようになりました。
5年生の時、群馬県障がい者水泳の第一人者である柴田安秀さんと出会い、障がい者水泳チームに誘われたことをきっかけに本格的に競技として水泳を始めました。当時は、選手を目指しているわけではなかったので、練習も辛かった記憶がありますが、6年生の時に初めて出た日本選手権で銀メダルを獲得することができ、とても嬉しかったことを覚えています。

2019年のクラス分けと憧れの東京パラリンピック出場へ

パラ水泳では障がいの程度により出られる種目が異なり、数年に一回、クラスの見直しがあります。2019年にシンガポールで開催されたワールドパラスイミングシリーズまでS6のクラスで泳いでいたのですが、陸上と水中でのチェックの結果、障がいが一つ重いS5クラスとの判定を受けました。S5とS6では出場できる種目が異なり、得意としていた400m自由形にも、出場することができなくなってしまったんです。
その大会から急遽200ⅿに出場しなければならず、有利に戦うことができるようになった反面、力の配分も変えなければならず、また、障がいが一つ重いクラスになり、とても複雑な気持ちでした。ただ、その時に泳いだタイムを見た監督から、東京パラリンピックに出られるかもしれないと言われ、憧れだったパラリンピックが急に現実味を帯びて、これは頑張らないとと思いました。

助成を受けた2021年、2022年の活動に関して

財団の助成を受けた2021年は、東京パラリンピックへの出場が決まり、ナショナルトレーニングセンターへの交通費や国内、国際大会への出場のための費用に充当し、2022年にも国内、海外での大会があったので、その遠征費として使いました。助成金をもらうことで、海外への遠征も行きやすくなりました。また、水泳道具は塩素で痛むのが早いので、助成金を利用して新しいものを購入することができました。

2021年に出場した東京パラリンピックはリレーメンバーで選出され、その他にも4種目出場することができました。リレーはプレッシャーもありましたが、ベテランの先輩たちからアドバイスをいただいて、今まで一人で泳いでいたので、とても楽しく、良い経験になりました。

何よりも自分に勝ちたい

実は今まさにスランプで、2019年から自己ベストが更新できないし、練習中も思ったよりタイムが上がりません。2022年3月に開催されたパラ水泳世界選手権の選考会では、派遣記録を切ることができ、マデイラでの本選に出場することが決まりましたが、泳いでもタイムを切ることができないことが分かっていたので、心が滅入っていて、泳ぎたくない気持ちが強くなってしまいました。
私は、国内では一位を獲れることは分かっているので、何より自分に勝ちたいんです。何かを変えないといけないと思い、いろいろな方に相談して、4月から新しい環境で新しいコーチに教わることに決めました。私は身長に対して腕が長いのが強みなので、長距離の200ⅿ自由形と個人メドレーを得意としており、先生と目標タイムを設定して練習しています。体幹も大事なので、通っている大学にお願いして、7月からは週1、2回、陸でのトレーニングも始めました。
今まで人に自己ベストを出したいとか意思表示をしたことがなかったですし、ずっと教わってきた環境は離れ難く不安でしたが、次のステージに進むことを決意し、今はまた水泳が楽しくなりました。

障がいは個性

障がいがあるないに限らず、いろんな人がいるので、多様性的な面でもそれぞれが過ごしやすい世界になるといいなと思います。今まで普通の学校に通っていたので、車椅子に乗っていることで嫌なことを言われたこともありましたが、私は私だし、障がいがあることが悪いということではなく個性だと思っています。今まで水泳を辞めたいと思ったことも何度かあったけど、私から水泳を取ったら何が残るんだろうという思いと、応援してくれる家族や友だちもいるし、コーチも一生懸命教えてくれるし、合宿に行ったら友だちがいて楽しいし、そういった積み重ねがあって、ずっと続けることができました。
これからは、まずは自己ベストを出せるよう練習を重ね、大会ごとに目標タイムを設定して、パリパラリンピックに繋げたいと思っています。パリパラリンピックでは、東京パラリンピックより上の順位を目指して頑張りたいです。大学を卒業したら、しっかり働きながら水泳を続けて、大きな大会を目指していきたいと思っています。

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インタビュー時、スランプと話してくれた由井さんですが、 2022年9月17日から開催されたジャパンパラ水泳競技大会では、 200m 自由形 大会新記録更新、200m 個人メドレー 大会新記録更新、100m 平泳ぎ日本新記録更新と輝かしい成績を収められました。 自ら環境を変えること決意し、さらに努力を重ね、また大きな一歩を 踏み出しました。由井さんの今後の活躍にも目が離せません。